「オレ、実はそんなに欲しくないから。あげる」


本当は欲しくないわけじゃなかったけど、横取りしたような形で自分の物にしたいわけじゃない。



女の子はガムを受け取ってくれた。



オレはホッとして立ち去ろうとしたら、今度は女の子がオレの制服の裾を掴んだ。


くんっと後ろに引っ張られて振り返る。


「あの、半分っこ」


そう言って女の子はオレに板状のガム3枚をくれた。



「え?」


「半分っこしましょう!」


そう言って女の子が財布を取り出したからオレは慌てて、
「お金はいいから!」
と言った。


「……でも」


納得いかない様子だった。


しばらく考えている様子を見せた女の子は、
「私、1年2組の石橋さやかです」
と、突然名乗った。

「今度会ったら、何か私の持ってるお菓子を半分っこしましょう!今日はありがとうございました」

そう言って、さっさと去って行った。



ひとり残ったオレは、手のひらのガムを見た。


『半分っこ』


さやかちゃんの声が耳に残っている。