オレはさやかちゃんに引きとめてもらえたことが嬉しくて、そのままイスに座り直した。



そういえば。

ふと、気づいてしまった。



オレ、さやかちゃんのマスクをしていない顔を見るのって初めてかもしれない。





小さい口だな。

キレイな形の唇。

ほんのり赤い。




ぼんやり見てしまう。




さやかちゃんはそんなオレには気づかず、
「ごちそうさまでした」
と手を合わせてから、さっさとマスクをはめた。



オレもジュースをぐいっと飲んで、マスクをする。




さやかちゃんはごそごそとランチバッグを探って、グミの小袋を取り出した。


「先パイ、これ」


小袋をオレに差し出す。


「約束、遅くなってごめんなさい」


「覚えてたの?」


オレは心の中で密かに小躍りした。

だって!

オレとの約束、覚えてくれていたんだから!




「みんながいる所では渡せなくて」

さやかちゃんはそう言って、
「いや、これは言い訳に聞こえますけど」
と付け加えた。




「でも渡せて良かったです。今日の内に」


「『今日の内に』って?」



さやかちゃんはオレをじっと見つめて、
「なるべく早く渡したかったんですよ」
と早口になった。




気にしてくれていたのか、と嬉しくなる。





テーブルから立ち上がるさやかちゃん。

「もう行っちゃう?」
と、思わず言ってしまった。