ーーきみを抱きしめることができたなら……。
「歩先パーイっ!」
太陽がイラつくほど元気な朝。
高校に続く坂道。
暑くて背中にはじんわり汗を感じる。
オレ、藤井歩は制服のネクタイを緩め、口元のマスクをほんの少し浮かして空気を入れた。
「あ、ゆ、む、先パイ!!」
「わっ!?」
いきなり背中をバシバシ叩かれて驚き、振り返る。
「さっきから呼んでるのにー」
後輩の女の子がわざとらしくキッとした目でオレを睨む。
その女の子の隣には、「我関せず」な目の表情の、石橋さやかちゃんがいた。
「おはよう」
声が上擦らないように気をつけながら、オレは軽く頭を下げた。
「おっはよーございまーーーす」
返事をしてくれたのはさやかちゃんじゃなかった。
さやかちゃんはただ、黙って頭を下げただけ。
……うっ!!
つれない態度でも可愛い!!