「とても良く発色すると書いてあったわ。ラメもとてもかわいらしいと」
「そうですね! 先日拝見したときも……」
「まぁ、先に見たの? 狡いわ」
「使わせていただくのですから、お許しくださいまし」
 リリスはグレイスの内心など気付かなかったようで、ここまで通りに明るく話してくれた。
 鏡台の前に座らされて、リリスにいつもより丁寧で濃いメイクをお試しにされながら、閉じた目の中でグレイスはあることが気になっていた。
 ……フレンは、誕生日パーティーで婚約発表があることを知っているのだろうか?
 不意に思った。グレイスの従者であるので、パーティーでグレイスの動く手順などはフレンがいつも用意や手伝いをしてくれていた。実際、父も『打ち合わせをした』と言っていた。
 けれどそれはどこまで話したのだろう。詳細までだろうか。
 その可能性はなくもなかった。婚約発表など重大な、ある意味イベントなのだ。従者が把握していなければ困ることになる。
 つまりグレイスに婚約や結婚の話が出たことを知っているのだろうか。その可能性を思ってしまえばもっと心が沈んでしまいそうで、グレイスは一旦、心からそれを追い払うことにした。
 今、考えても良いことなんてないだろう。意識してかわいらしいコスメや、それで飾られていく自分のことに集中する。このあと、一人になった夜にでもこの件は思い悩んでしまいそうだとわかっていても。