そして、三日後。アデライトは父と共に王都に向かい、双方で挨拶を済ませるとそのまま王宮で妃教育を受けることになった。
 リカルドとの式は、来年の四月に決まった。とは言え、アデライトにとって妃教育は二回目な上、一回目ではすでに終わらせている。それ故、半年くらいで合格することが出来て、何も知らないリカルドや王妃達に感心された。

「流石、アデライトだ」
「本当に素晴らしいわ」
「あとは、式を待つばかりだな」
「そう言って頂けると……嬉しいです。どうかこれからも、色々と教えて下さいませ」

 アデライトの健気に聞こえる言葉に、リカルド達が嬉しそうに微笑む。それににこにこと笑い返しながら、アデライトは声に出さずに呟いた。

(これで少しは、リカルドや王妃の仕事が回されて、もっと色々と動かせるかしら……まあ、例の件はもう実現したけれど)

 例の件、とはサブリナから奪った『落ち着くまで税を無くす』ことだ。アデライトとの婚儀を、民達がより祝福するように思ったのか、早々に決まり実現化した。当然だが、災害で疲弊した平民達は喜び、アデライトはますます聖女と呼ばれて慕われた。
 そんなアデライトの婚儀の為、王妃やリカルドの好みを取り入れながら、花嫁衣裳が用意された。高価ではあるが胸元などは開いていない、流行りの型ではないドレスだが、アデライトとしては問題ない。むしろこれで、王妃の機嫌が取れるなら何よりだ。
 そして式の前日、父のウィリアムが領地から来てくれた。泊まりは王宮の客間だが、今は夕食前にとアデライトに与えられた部屋に来てくれている。久しぶりに父子水入らずで話したいからと、エルマ達使用人には席を外して貰った。
 ミレーヌは複雑な立場もだが、アデライトの腹違いの弟を出産し、目を離せないとのことで一緒に来てはいない。しかし代わりに、とウィリアムがミレーヌと異母弟の姿絵を持ってきてくれた。異母弟は、ふわふわの髪はミレーヌと同じ黒だが、瞳は父やアデライトと同じ青だった。

「ありがとうございます、お父様」
「……アデライト? お前は今、幸せか?」

 ウィリアムからの問いかけは巻き戻り、こうしてリカルドとの婚儀が決まってから想定していたものだった。
 王族という上の立場から婚約を申し込み、王族の都合でこうして婚儀をし。先程、見て貰った花嫁衣装は美しいが、アデライトの好みは全く反映されていない。リカルド達に振り回されていないかなど、心配になったのだろう。
 だが、アデライトの答えは決まっている。

「はい、幸せです」

 巻き戻ったアデライトは、復讐の為に生きている。そしてリカルドとの婚儀も、復讐する為の手段の一つだ。
 それ故、これは嘘ではない――心の中だけでそう呟き、アデライトは微笑みながら父にそう答えたのだった