一回目の時、代替え案の用意を押し付けられたアデライトは、父であるウィリアムに相談出来なかった。財務大臣として多忙な父に、迷惑はかけられないと思い込んでいたからである。
 代わりに、相談――と言うか、放課後の妃教育の時間を減らして貰おうと、話をしたのは王妃にだった。結果、歓迎会までと期間が決まっているのと、お茶会の開催も妃教育に役立つからと、時間を減らせた上に業者を紹介して貰って何とか代わりの花を用意出来たのだ。 

「まあ、巻き戻った今では父親に相談することも、王妃に紹介されなくても領地から薔薇を取り寄せることも出来るよね?」
「ええ。お父様とは普通に、手紙のやり取りをしていますし……今のうちに連絡をしておけば、早咲きの薔薇をたくさん用意出来ます」

 元々、父とは週に一度の頻度で手紙のやり取りをしている。
 そしてリカルドから代替え案の手伝いを頼まれた日の夜、父と領民達に手紙を書きながら、アデライトはノヴァーリスの言葉に答えた。
 王家からの『影』が天井裏にいると、ノヴァーリスが教えてくれた。もっともそんなノヴァーリスの声も、二人のやり取りも『影』には聞こえないのでただ手紙を書いているようにしか見えないだろう。

「息子が君に手伝わせているのも、君が手際良く準備しているのも王妃に伝わるから……好感度が、上がりそうだよね」
「そうですね……万が一、サブリナの氷中花が問題なければ、ジャムなどの商品にすることで話はついていますし。抜かりはありません」
「……問題、なければね?」
「ええ。今回は、どうでしょうね?」

 実は一回目、前日の夜に気温が上がってサブリナの氷中花は溶けて翌日、会場に出すことが出来なくなったのだ。
 それ故、アデライトが用意した花を飾って、新入生歓迎会は問題なく執り行われたが――歓迎会終了後、サブリナからはリカルドがどう話したのか形ばかりのお礼を言いながらも「いい気にならないでよね」と囁かれ、手のひらに強く爪を立てられた。そしてリカルドも、生徒会の面々も誰一人アデライトを労わなかった。ただ当然のように、アデライトの努力を搾取した。

「巻き戻った今回、私絡みのことのように変わったこともあるので、そもそもが氷が溶けずに済むかもしれませんが……少なくとも、リカルドや生徒会からお礼一つ貰えないことはないでしょうね」
「うん、そうだね……個人的には、氷が溶けた方が面白いけど」
「ノヴァーリス? だからって、氷を溶かしたりしないで下さいよ?」
「解ってるよ。そんなことをして、万が一にでも君に嘘をつかせることになったら、大変だからね」

 そんな話をしながら、アデライトは父と領民への手紙を書き終え、父宛の封筒に二通の手紙を入れた。
 そして明日、エルマに出させようと思いながらアデライトは寝台へと横たわった。