その日の気持ちで味が変わるのも珈琲の醍醐味か。

 よし、今日はもうこれで行こう。

 新太は紙コップに珈琲を注ぎ、デスクの上に置いたままの社報を気にしながらも、配って歩く。

「ありがとうございますっ。

 やったっ。
 二度も続けていただけたっ」

 カップを置いた若手男性社員はそう喜ぶが。

 いやいや。
 それはお前が毎度疲れてそうだからだ。

 ゆっくり休めよ、と心の中で言い、部長のデスクにも置く。

「あ、ありが……」

 忙しげに働いていた部長が顔を上げ、驚いた顔をする。

 気を利かせた誰かがお茶でも淹れてくれたのだと思っていたようだ。