昨日、あなたに恋をした





 その日、ベルゼブブ新太は職場の給湯室で珈琲を淹れていた。

 自家焙煎した豆を()いて淹れる。

 そして、それを本日疲れてそうな人に振る舞う。

 書類とパソコンの画面を交互に見つめ、渋い顔をしていた女性社員の横にそっと置く。

「この列、なくてもいいんじゃない?」
と画面を指差し言ったあとで、別の男性社員のところに移動した。

「あっ、ありがとうございますっ、楓さんっ」
という声が後ろから聞こえてくる。

 新太は、いやいや、と振り向かずに言った。

 仕事で煮詰まったときなど、珈琲を淹れるのは、いい気分転換になるのだ。

 新人男性社員、森下のデスクにも置くと、森下は、
「嬉しいですっ、楓さんっ。
 やっと僕にも伝説の珈琲がっ」
と感涙に(むせ)ぶ。