誠孝は前を見たまま、
「……いろいろあったことは知っている」
と言った。
そうか。
知っていたのか、と日子は思ったが。
実際には、誠孝は知らなかった。
『いろいろあった』ということを新太から聞いただけだった。
まあ、嘘は言っていないし。
自分の知らない秘密を日子と東城だけで共有しているのが、気になるな、と思って、ちょっと思わせぶりに言っただけだった。
そうしないと、知らない、と言った瞬間に、
「そうですか」
と話が終わってしまいそうだったからだ。
日子は、東城の悪い噂話をできるだけ広めたくないと思っているだろうから。
ふわっと嘘をついてしまったが、おかげで、日子の話は続いた。
「私もよく知らなかったんですけど。
東城先輩の事件、結構広まっちゃってるみたいで。
今の仕事にも差し支えないかなってちょっと心配してるんです。
絶対、そんな事件、嘘だって私は思ってるんですけど。
……沙知見さん?」
誠孝は前を見たまま、難しい顔をしていた。
そんな事件って、どんな事件だーっ!
と内心、絶叫していたが、その動揺は幸い、顔には出なかったようだ。
なんなんだ、東城の起こした事件ってっ。
今更聞けないっ。



