昨日、あなたに恋をした

 



 今日も沙知見さんに締め上げられてしまった。

 あの人、敵でなければ、心強い有能な人なんだろうが。
 敵に回られると、こんな恐ろしい人はいないからな……と思いながら、日子はトボトボ、マンションに帰っていた。

 いつかたまたま利害関係が一致し、共闘を組んだときは、こんなに頼りになる人はいないと思ったものだが。

 常日頃は敵なので、その鋭い言葉の矢を全身に浴びるばかり。
 もっとも会いたくない人間のひとりだった。

 ほどほどの高さのマンションの上にちょうど、ぽっかり月が浮かび、前庭の植栽から虫の音が聞こえてくる。

 ……あ、ちょっと和んだ、と日子が思ったとき、

「お帰り」
と下の方から声がした。

 玄関付近に草むしりをしているマンションの警備員がいる。

 日子に気づき、声をかけてきたらしい。

 日子はその長身でガタイのいい、濃い顔のイケメン警備員に笑顔で挨拶する。

東城(とうじょう)先輩。
 ただいま帰りました。

 ……草むしりも警備員の仕事なんですか?」
と日子が訊くと、東城は、いや、と言い、立ち上がる。

「単に暇だったから」

 すっと東城が立ち上がると、その顔や体格や姿勢のせいか。
 要人警護をしている人のように見えて。

 これから、なにかすごい事件が起こるのでは、とつい、周囲を窺ってしまいそうになる。