「ちょっと、騒がしいけど何かあったのかしら」


 会議が終わって、早瀬さんが教室に帰ってきた。

 まずい、気が強くて正義感のある学級委員長でも、年上の不良男子を見たら腰が引けるはず。

 なんとかこの場を納めて、瀬戸くんには二年生の教室へ戻ってもらおう。


「あの……」


 私が弱々しい小声で話すのを断ち切るように、早瀬さんが言い放った。


「瀬戸先輩は、もう自分の教室に戻ってください!」


「いいのか美咲?」


 えっ! 瀬戸くんが早瀬 美咲さんのことを下の名前で呼んでる!

 二人は親しい仲? 年上の瀬戸くんと早瀬さんがまさか……


「じゃあな宇佐、またくるからよ!」


「えっ……」


「困ったことがあったら、いつでも言えよ!」


 大きな声で、私にではなくクラスメイトに向けて叫んでる気がした。

 瀬戸くんと仲が良ければ、クラスで孤立しても嫌がらせはされなくてすむ。

 きっと、彼は分かってて言ってるに違いない……


 瀬戸くんはズボンのポケットに両手を入れて、気だるそう背中を向けて歩き始めた。

 そして立ち止まり、早瀬さんに視線を向けている。

 早瀬さんも小さく頷いて、まんざらでもない様子。


「学校の制服姿、似合ってて可愛いぜ……」


 瀬戸くんの言葉を聞いて、早瀬さんが頬を赤く染めて恥ずかしがってる。


「いいから、早くいきなさいよ」


「おうっ」


 立ち去っていく瀬戸くんの背中を見つめながら、私は思った。



 二人は、恋人同士なのだろうか……