愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「一発くらい殴ってよかったんじゃないか?」
 フードコートから母さんの姿が完全に見えなくなると、零次はテーブルに肘をつけて、不満そうに口を尖らせた。

「殴んなくていいよ。恨んでないって言ったら嘘になるけど、別に殴りたいと思うまで恨んでないから」
「本当にそう思ってんのか? 俺は今すぐにでも殴りに行きたいくらいなんだけど」

「何発くらい殴りたい?」
 興味本位でそう言ってみると、零次は真剣な顔をして腕を組んだ。

「十発……いや、五十発くらい殴っていいんじゃないか? いや、それでもまだ足りねぇな。お前がされた仕打ちを味合わせるには、殴るだけじゃ余りに物足りなすぎる」
「アハハハ!」
 興味本位で言っただけなのに、零次が余りにも本気でものを言うから、俺はつい声をあげて笑ってしまった。

「な、なんだよ」
 零次がうわずった声で言う。どうやら俺の声に相当びっくりしたみたいだ。
「ありがとう、零次。俺のためにそんな風に言ってくれて、本当にありがとう」
 零次が俺のためを想ってそんな風に言ってくれることが、とても嬉しかった。

「別に、礼言われるほどのことじゃねえよ」
 頬を真っ赤にして、零次は言う。顔が赤すぎてリンゴみたいだ。

「顔、真っ赤だぞ?」

「うるせー! いつも赤くしてる奴が言うんじゃねえよ!」
 口を尖らせて、不機嫌そうに零次は言い返す。
まるで、反抗期絶頂の子供みたいだ。

「本当にありがとう、零次。俺、零次が友達で良かったよ」
 拗ねている零次の肩に軽くよりかかって、俺は笑った。
 地獄みたいな世界から俺を救ったのは、学校中でチャラいって噂されてて、死をとても怖がっている謎めいた男だった。あまりに漫画じみたその展開を、とてもいいものだと感じたから。
 こいつのそばに、一生いたいと思ったから。

「海里」
 零次はてりたまのたこ焼きを爪楊枝でさすと、それを俺の口の中に入れた。
「何これ? あまっ!」
 たこ焼きは冷めてたけど、甘い照り焼きソースと卵が絶妙に合ってて、とても美味しかった。
「だろ? こっちも食う?」
 零次が明太マヨのたこ焼きを爪楊枝で刺して、俺の口のそばにやる。
 俺は爪楊枝を持ってそれを食べた。

 食べた瞬間、明太子の辛さがものすごい口に広がった。

「かっら!!」
「ククク。海里素直すぎだろ!!」
 そう言って零次は声を上げて笑った。