親しい人が後ろにいるのって、こんなにも心地いんだな。変だな。虐待されるようになってから、誰かが後ろにいて心地いいなんて思ったこと一度も無かったのに。

 出会いはあまりに不可解で、意図がありまくりだとしか思えない。

 監視カメラをつけたことや死を怖がってることいい、可笑しな点は数え切れないほどある。それでも俺はそんな奴といるのを心地いいと、楽しいと心の底から思った。

 家具コーナーには、白やベージュなどの横道な色のから緑や紺など、実に様々な色のソファがあった。

「海里は何色のソファがいい?」
 ソファが置かれたところを一通り見回した後、零次は俺を見て首を傾げた。

「紫」
 俺はそっけなく答えた。

「へえ? 紫好きなのか?」
「好きなの零次だろ。テーブルも、カーテンも整理タンスも全部紫じゃん」
 呆れながら、俺は呟く。

「あーうん」
 紫色のソファを触りながら、零次は呟く。

「零次?」
 どうして。

 零次の瞳から、涙が溢れていた。
 この前紫色が好きなのか聞いた時は、泣いてなかったのに。

「……本当は紫好きなの俺じゃなくて母さんなんだよ。母さん紫すげえ好きで、家具だけじゃなくて、部屋の香りや身につける香水も紫の植物のラベンダーにするくらい本当に好きでさ。それで、紫色のついつい買っちゃうんだよな。紫色の買ったら、家に母さんがいるような気がするから。ごめんな、あん時本当のこと言わなくて。あん時はほら海里も自殺やめたばっかだったから、暗い話はしない方がいいと思ってさ」 

「いや、それは気にしなくていい。俺も零次の立ち場だったらそうしてたと思うし」
「ありがと」
 涙を拭いながら零次は言う。

「うん。その……お母さんは幸せだな、零次にそんなに思ってもらえて」
「そうだといいんだけど」
「そうだよ……多分」
 顔を伏せて言う。
 絶対とは言えなかった。俺は零次みたいに誰かを大切に思えたことも、零次以外の奴に大切にされたこともなかったから。

「ハッ。海里まで落ち込んでどうすんだよ」
 零次が笑って言う。

「だって……」

「ありがと。でも、俺は大丈夫だから。もう吹っ切れてるし」
「吹っ切れてたら家具買わないだろ」
「ハハ。確かにそれはそうなのかも。でも少なくとも、しょうがないとは思えてるから」
「そうなのか?」