「はぁー。なんだよそのどうでもいいみたいな頷き方。萎えるんだけど。こっちは何とかしてお前笑わせようとしてんのに、すげえ馬鹿みたいで」
 不服そうに口を尖らせて、阿古羅は拗ねる。

「え? 笑わせようとしてたのか?」
「当たり前だろ! そうじゃなかったら、あんなよくわからねぇ自慢しねぇよ!」
 頬を赤くして、阿古羅は突っ込む。

「アハっ、アハハハハハ! なんだよそれ!!」
 俺は阿古羅がそんなに必死で俺を笑わせようとしてたのが可笑しくて、つい声を上げて笑った。

 ああ、そうか。

 こいつは俺を必死で笑わせようとしてたのか。そのためだけに、ゲーセンでぬいぐるみをとったり、プリを撮ろうっていってきたり、水族館に俺を連れてきたり、くだらない冗談をいってみたりしてたんだ。
 弱みを握るためとかそういう下心なしで、俺を本気で笑わせようとしていたんだ。
 俺はそれに、少しも気づいていなかった。
 環境に絶望しすぎて、こいつがスパイなんじゃないかとか、嫌な想像ばかりしていた。阿古羅はこんなに必死で俺を笑わせようとしてくれていたのに。

 俺はこいつが本当に親父の何十倍も優しくて俺の地獄みたいな世界を本気で壊してくれようとしている可能性を、少しも考えてなかった。

 自己嫌悪と阿古羅への感謝の気持ちが込み上げてきて、涙腺が緩んだ。
「え、ちょっ? 海里?」
 涙を流し始めた俺を見て、阿古羅はあたふたする。
「……だよ」
「え?」
「だから、嬉し涙だよ!」
 投げやりに言って、涙を流しながら俺は笑った。

「嘘? マジで?」

「ああ。水族館に来れて嬉しい。楽しいよ、零次」
 阿古羅の名前を、親愛の意味を込めて呼んだ。
 なんでスパイなわけでもないのに監視カメラをつけたんだとか、なんであんなに俺のために怒ってくれたんだとか、そういう疑問はとりあえず置いといて、零次と生きてみようと思ったから。
 こいつと生きたら、本当に人生が変わるんじゃないかと思ったから。

「じゃあ、どんどん行くぞ!!」

 零次は心の底から嬉しそうに口元を綻ばせると、俺の右手を握って、どんどん水族館の中を進み始めた。
 零次にあきれながらついていくと、着いたのは水族館の中にあるBARのようなものだった。
 BARには丸いテーブルが二つとカウンターがあって、カウンターはブラックライトに照らされて、きらきらと光っていた。

「いらっしゃいませー。何にしますか?」
 零次とカウンターに行くと、店員が声をかけてきた。

「俺はジンジャーエールで。海里は何にする?」
「オレンジジュースでお願いします」
「かしこまりました」
「海里先テーブルのとこ行ってていいよ」
「わかった」
 俺は空いてるテーブルのとこに行って、零次を待った。