「乗らないのか?」
いつまでも座ろうとしない俺達に痺れを切らしたのか、運転手はそう言って眉間に皺を寄せた。
「乗ります」
「のっ、乗ります」
阿古羅に続いて、戸惑いながら言う。
俺達が後部座席に座ると、運転手はもう一度ボタンを押して後部座席のドアを閉めた。
「どこに行くんだ?」
車の窓を閉めながら、運転手は言う。
俺は運転手の言葉に答えないで、阿古羅を見た。
「海里、家に服とか取りに行かなくていいよな?」
「いっ、いい。行きたくない。でも、鞄家にある」
「それはスクバ買いなおせばいいから大丈夫だろ。指定もないし。教科書とノートは置き勉してるか?」
「うん。だいたいは」
「じゃ、とりあえず俺の家に行くか!」
阿古羅はそう言って、また俺の頭を撫でようとして、手を上にあげた。
俺は何も言わず、阿古羅の手を握る。
「えっ?」
阿古羅は、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……これが限界」
「アハハハ! わかった。じゃあ始めるか! 楽しい逃亡生活を」
阿古羅は手を握り返すと、とても嬉しそうに笑った。
「うん」
小さな声で、俺は頷いた。
「声ちいさっ! これからせっかく新しい人生が始まるっていうのに、テンション低すぎだろ!」
顔を顰めて、阿古羅は突っ込む。
「だって、さっきまで死のうとしてたから」
「そこは切り替えろよ! お前本当にテンション低すぎ! 熱がなさすぎなんだよ!」
「熱がない?」
「ああ。お前には熱い心みたいなのがもう全然ないんだよ。虐待のせいで心が死んじまってて」
「……俺、そんなに暗い?」
小さな声で俺は呟く。
「ああ。見てて心配になるくらいな。運転手さんもそう思いません?」
「……まぁ、確かに今時の高校生よりは大人しいかもな」
戸惑いながら、運転手は首肯する。
「大人しいどころの話じゃないですよ!! こいつ、本当に滅多に笑わないんですから!」
「確かに、笑わないな。ここまで送った時も終始無言で、外見てたし」
「え? 何それ気まず! お通夜か! お前そんな元気なかったのか?」
「うっ、うん」
俺は阿古羅の声が余りに大きいのと、叩かれたことに戸惑いながら肯定した。



