俺は咄嗟に、左手で頭を隠した。
「え?」
阿古羅は意味が分からないというような顔をして、手を下ろした。
もしかして、俺の頭を撫でようとしたのか?
「あっ。ごっ、ごめん、俺……」
慌てて手を下ろして頭を下げる。
「殴られると思ったのか?」
阿古羅が神妙な面持ちで尋ねてくる。
「うっ、うん。本当に、ごめん」
「気にすんな。毎日あんな目に遭ってたら、そうなって当然だ。火傷、冷やそうぜ」
頭を下げた俺に笑いかけてから、阿古羅はトイレの流し台まで、足を進める。
「うん」
俺は阿古羅を傷つけたのが後ろめたくて、小さな声で頷いてから、阿古羅の後をついていった。
トイレの入口の近くの流し台の前に隣同士で並んで、傷の手当をする。
「さっきはなんで俺が危ないのに気づいたんだ?」
俺はポケットからハンカチを取り出すと、流し台の蛇口を回しながら尋ねた。
「コンビニで飯買って教室で食べようと思って学校向かってたら、お前の悲鳴が聞こえて」
阿古羅が肩に掛けているコンビニの袋を俺に見せてくる。
「工事中だったのに悲鳴が聞こえたのか?」
「ああ。すぐ近くにいたから」
「そっか。庇ってくれて本当にありがとう」
俺はハンカチを濡らしながら、礼を言った。
「おう!」
俺の言葉に頷くと、阿古羅は床に鞄とコンビニの袋を置いてから、ブレザーを脱いだ。
「あ、持つよ」
蛇口の水を止めて、俺は言う。
「その行為はありがたいけど、断わるわ。人に親切にする前に、その首冷やせ」
「……わかった。あ、阿古羅これ使って。直に当てたら皮膚が剥がれちゃうかもしれないから」
俺はポケットから二枚目のハンカチを取り出して、阿古羅に渡した。
皮膚が剥がれるのを知ったのは中学三年生の時。太ももにライターを当てられて火傷をさせられて、ズボンを脱ごうとしたら、母さんに皮膚が剥がれたらどうするのって止められた。
「おっ、サンキュー。何でハンカチが二枚もあんだ?」
ハンカチを受け取ってから、阿古羅は首を傾げる。
「……火傷はよくさせられるから」
俺は阿古羅から目を逸らして、手に持っているハンカチを絞りながら答えた。
「……そうか。悪いな、言いにくいこと言わせちまって」
阿古羅が床にブレザーを投げてから、申し訳なさそうに目尻を下げる。
「いや、大丈夫」
俺は濡れたハンカチを鎖骨に当てながら、小さな声で言った。



