「……俺の気持ちは無視か? 俺はお前が身投げしたことを引き摺りに引きずって奈緒達以外に友達も作ってなかったんだぞ?」
「友達なら作ろうとしてたじゃん。お前は俺の死を乗り越えようとしてた。だから俺が変装した幸って男に飯を奢ろうとしたんだろ」
「俺はっ!!」
否定したいのに、否定できなかった。
確かに俺は昨日、零次がいない寂しさを埋めるために、友達を作ろうとしていた。
でもそれが死を乗り越えたことにはならないだろ!
「人の死なんて、案外簡単に乗り越えられるんだよ。俺みたいに、相当トラウマになる経験をしてない限りはな」
「確かに零次は母親がナイフに刺されて死んでいるとこや、借金取りに追われた人が首つりをするとこを見たから、人の死を乗り越えるのに、果てしない時間がかかるのかもしれない! それでも俺は、少なくともお前のことを二年は引きずった!」
「ハッ。たかが二年だろ? 俺は母親が死んでもずっと、病気みたいに紫色のものを集めてた。お前はそういうことをしたのか? 違うだろ?」
零次が俺を嘲笑う。
零次の俺を見る目が冷たくて、とても怖かった。
「それでも俺は、言葉にできないほど辛かった! 俺はこの二年の間、東京のあらゆる都市と区を回って、お前の手がかりを探してた! 警察にだって操作を依頼してたのにだ! そんなことをするくらい、お前に会いたくて仕方がなかった!!」
拳をぎゅっと握りしめて、身体を震わせながら叫ぶ。
冷たかった零次の目が、急に昔の人懐っこそうな優しい目に戻った。
「……そうだったんだな。ごめん、そんな風になるとは、想像もしてなかった」
想像してなかっただと?
零次の服の襟を服が破けそうなくらい強い力で掴んだ。
「なんだよそれ! 人の人生勝手に変えて、勝手に身投げして、挙げ句の果てには俺がお前を必死に探すと思ってなかっただって? お前、ふざけるのも大概にしろよ!!」
頭に血が昇る。
やっぱりこいつは、とことん自分を大切にしていない。そんなんだから、俺が身投げした零次の手がかりを必死で探すと思えなかったんだ。
「なぁ、俺がなんで怒ってるかわかるか? お前は俺に自分を大切しろって言っておきながら、お前自身のことを、とことん大切にしてなかった! 俺に散々自分の意志を殺すなっていって、ぬいぐるみを渡しておきながらお前はっ!!」



