俺が零次のことを引き摺ってるのには気づいているのにそんなことをするくらいだから、何か相当深いわけがあるのだろう。それならその訳って、一体なんなんだ?
俺はいてもたってもいられなくなり、大急ぎで階段を降りて、リビングに行った。
「海里さん? そんな慌てて、一体どうしたんですか」
リビングの隣にあるキッチンのそばに立っていた幸さんが振り向く。
「……零次、茶番はやめろ!」
俺は手を伸ばして、幸さんの金色の髪を勢いよく掴んだ。幸さんのヅラが取れて、もう随分見慣れた真っ白な髪が顔を出す。
「れ、零次っ!!」
零次を、俺は勢いよく抱きしめた。
「……海里」
声を聞いただけで、涙が溢れた。
その声を聞いてからやっと、幸さんの時の方が、今より幾分か声が高かったことに気がついた。
声まで変えてたのか。通りで、なかなか見抜けなかった訳だ。
「え? いつ気づいた?」
「……ベットに零次の髪、ついてた」
「え? 俺ベッドの上は海里が風呂入ってる間に掃除したんだけど。……あ、海里を心配して部屋に行った時に落ちたのか」
「なんでこんなことした! 俺がどんだけ悩んだと思ってんだよっ!」
「……だって俺、もう海里のこと守れねえんだもん」
「え?」
「言っただろ。俺は人が死ぬのが嫌なんだって。それなのにこんな身体じゃ、たとえ整形をしたおかげで父親の問題が解決したとしても、海里は俺といたら、いつか絶対に危ない目に遭う。いつか絶対、足が不自由で、目が片方見えない俺を庇って、事故に遭う。そう考えたら、お前に会うのが怖くて! ……それで俺はずっとお前に自分から会いに行ってなかったのに、お前がよりによって俺の目の前で美和ちゃん達と喧嘩して、独りになってたから、俺は思わず声をかけちゃったんだよ。俺はお前が死ぬのだけは、どうしても嫌だった。でも、それと同じくらい、お前が独りでいるのを見て見ぬ振りするのも、どうしても嫌だったんだ」
「だったらなんで身投げなんかした! お前が身投げしなかったら、俺は絶対、奈緒達と喧嘩なんかしなかった!」
「そうだな。でも俺があの日身投げをしなかったら、俺か海里のどっちかが絶対親父に殺されてたよ」
確かにそうなのかもしれない。でもそれが理由で身投げなんて、あまりに勝手過ぎる。



