「海里さん、大丈夫ですか」
幸さんが俺を心配して部屋の中に入ってくる。
幸さんはベッドの端に腰を下ろして、震えてる俺の背中を、そっと撫でた。
零次とは全然違う顔つきをした幸さんの手は嫌になるくらいあったかくて、俺はなんだか泣きそうになった。
なんで零次じゃないんだろう。
なんで零次じゃないのに、俺はこの温もりに安心しているんだろう。意味がわからない。それでも自分があいつがいない寂しさに飢えていて、ぬくもりを求めていることだけは、嫌というほどわかった。
幸さんは零次じゃないし、零次が目の前に現れない限り、俺はふとした瞬間に零次を思い出して涙を流すだろう。それでもこの寂しさは、他人で埋められる。埋められてしまうんだ。たとえ俺がどんなにそれを望んでいなくても。
朝。
窓から照りつける朝日が眩しくて、俺は目を覚ました。
雷の日なのに、なんもされなかった。虐待をされていた時は決まって、雷の日は手足を縛られて目隠しをされていたのに。
身体を起こして、ゆっくりと伸びをする。
よかった。なんもされなくて。
こうなったのも零次のおかげだな。
――ん?
ベッドの端に、白い髪の毛が落ちていた。
え? ここ、幸さんの部屋だったよな確か。だとしたらこの髪は、幸さんの? あの人、ヅラだったのか?
いや、片目が見えない人がわざわ手間のかかるヅラを被るか?
そんなの髪の大半が白髪でもない限りは、確率が低いんじゃないか?
……髪の大半が白髪?
幸さんは俺と、ワンサイズしか服の大きさが変わらなかった。零次もそうだった。
幸さんは自殺未遂をして足を失ったと言っていた。零次も、自殺未遂をしていた。
これは単なる偶然か? いや、偶然にしてはあまりに出来すぎている。
でも雪さんと零次じゃあまりに顔が違うし、それに喋り方だって、幸さんと零次じゃあまりに似つかないよな。髪色だって違うし。
俺の考えすぎか?
いや、零次が父親に殺されないために整形をしてヅラをつけていたんだとしたら、顔の相違と髪色の問題は解決する。
幸さんは、俺が雷が苦手なことを知らなかった。俺が零次のことを言った時も、特に変な様子はなかった。でもそれが全て、演技だとしたら?
でもそれが演技で幸さんが零次だとしたら、そんなことをしてあたかも他人のように振る舞うのは、一体どうしてだ?



