「それならいいんですけど」
その後俺は、テーブルにあったご飯を、幸さんと軽い談笑を交えながら食べた。
「今日はもう寝ましょうか。千葉に行くなら、明日の朝には帰らないとでしょうし」
俺がご飯を食べ終わったのを見計らって、幸さんは言う。
「はい。今日は本当に、ありがとうございました」
「いえいえ。そしたら海里さんは私のベッドで寝てください。私はソファで寝るので」
「いやいや流石にそれは悪いです! 俺がソファで寝ますよ」
「ベットで寝てください。でないと私が、海里さんの想い人に怒られちゃうので」
そこまで言われると、頷くしかなかった。
「……そしたら、今度何か奢らせて下さい。幸さんに会いに、東京に戻るので」
思わず言ってしまった。
俺はもう一生、友達を作らないつもりだったのに。
たとえ今日会っただけの関係でも、泊まりなんてしたらその二人の関係はもう今日会っただけの関係から、『友達ではないけど、それに近い何か』のような関係になってしまっている。
それがわかっていたのに、俺は自ら友達になろうとするようなことをしてしまった。
「ふふ。ありがとうございます。楽しみにしてますね」
嬉しそうに口角を上げて、幸さんは言う。
俺はそんな幸さんになんて声をかければいいのか、全然わからなかった。
幸さんのベッドに寝転がりながら、俺は物思いに耽っていた。
幸さんって、やけに優しいよな。初対面の俺を家に泊めてくれて、風呂に入らせてくれて、その上服まで貸してくれて。なんであんなに優しいんだろう。
まるで零次みたいだ。
零次は俺に、すごく優しくしてくれた。それはもう異常なくらいに。
幸さんは零次と同じくらい優しいわけじゃないけど、かなり気を利かせてくれる。
幸さんと友達になったら、きっとすごく楽しいんだろうな。友達かあ……。
「はあ……」
聞くに耐えないため息が漏れる。
俺は結局どうしたいんだよ。
奈緒にあんな風に一生独りでいいなんて啖呵を切ったくせに、そのほんの数時間後には、友達のような関係の人を作ってるなんて矛盾しているにも程がある。
雷の音がして、俺は身体を小刻みに震わせながら、枕を頭の上にやって、軽く耳を塞いだ。



