予想外の提案に目を見開く。
他人の家だし、今日は風呂入るのは無理だと思ってたから、正直、言ってもらえてすごく嬉しかった。
「もちろんです。服は幸成のでいい?」
「うん」
「いや、服は大丈夫です、俺、明日から千葉に行くことになってて、一体いつこっち戻ってくるかわからないので」
「そんなの気にしないでください。またいつか来た時に返してくれればいいので」
幸さんにも断られたし、ここはご厚意に甘えた方がいいのかもしれない。
「……すみません、ありがとうございます」
「いえ。そしたら、お風呂から出るまでに、ご飯用意しておきますね」
「ありがとうございます、本当に」
「そしたら服は後で僕が持って行きますね。お風呂場はこっちです、どうぞ」
幸さんが俺を脱衣所に案内する。
脱衣所はドアの正面に洗面台と洗濯機が隣同士であって、風呂場は、洗濯機と垂直の位置関係にあった。
洗濯機の前には小さなカゴがあり、風呂場の向かいには棚が置かれている。
棚は中が見えるようになっていて、そこにはタオルやバスタオル、ヘアアイロンなどが入っていた。
「タオルはこれ使ってください。使ったら洗濯機の前のカゴに入れて置いて貰えばいいので」
棚からタオルとバスタオルを出して、幸さんは俺に手渡す。
俺が礼を言ってそれを受け取ると、幸さんはお辞儀をして脱衣所を後にした。
風呂から出て、洗濯機の上にあったバスタオルで身体を拭き、 バスタオルの隣に置かれていた幸さんの服を手に取る。服のサイズは、ワンサイズだけ俺よりデカかった。
俺は着替えが終わると、棚にあったドライヤーを拝借して髪を乾かしてから、リビングに戻った。
リビングのテーブルには、軽めのご飯が用意されていた。
「お風呂ありがとうございました。ドライヤーもお借りしちゃったんですけど、大丈夫でしたか?」
「はい、もちろんです。やっぱり服、ちょっと大きいですね。海里さん、細いから。ちゃんとご飯食べてますか?」
テーブルの前にいた幸さんが俺を見ながら笑って言う。
どうやら、親御さんは寝室に戻ったみたいだ。
「……できるだけ食べるようにはしてるつもりです」
零次がいなくなってから食欲は湧かなくなってしまっているけれど、それで倒れたら元も子もないから、どうしても食べる気になれない時以外は、できるだけ食べるようにしている。



