愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「……ハハ。怖がり方が変ですよね」
 俺は雷が怖いんじゃなくて、雷の時に父親にされたことがトラウマになってしまっているから、雷の音が近くても遠くても怯えてしまう。雷が相当苦手な人とかでもない限りはそんな反応なかなかしないから、変に思ったんだろう。

 どうしよう。
 話すべきか、話さないべきか。

 もしここにいるのが零次だったら、間違いなく恐怖心を共有していただろうな。
 また零次のことを考えてしまった。

「いいですよ、言いたくないなら、言わなくて」
 あからさまに気を遣われた。
「すみません、話します。……いや、話させてください」
 幸さんは意を決して俺に身体のことを話してくれたのに、俺が話さないなんて、失礼にも程がある。

 俺は幸さんに雷の日に受けた虐待のことを話した。

「……酷いですね、海里さんのお父さんは。子供にそんなことをするなんて信じられない。まるで私の父親みたいです」
「え、幸さんも虐待を受けたことがあるんですか?」
「はい。……私はそれが原因で自殺したんです」
 俺と幸さんの間に、沈黙が流れる。
 幸さんは零次じゃない。
 そうわかっていても、幸さんの境遇や、自殺未遂をしたこと、義足のことなど、幸さんと零次はあまりに似通っている部分が多くて、二人は同一人物のような気がしてきた。
 いやいや、何考えてるんだ俺。ちゃんと現実を見ろ。

「あの、幸さんの親って、どんな人ですか」

「キャバクラと競馬と酒が大好きなクソ野郎ですよ」
 やっぱり違うか。
 零次の父親は愛人を作るくらいだからキャバクラや酒は好きそうだけど、競馬が好きなんて聞いたこともないし。

「誰か来てるの?」

 リビングのドアが開いて、女の人が中に入ってくる。
 起こしてしまった。いや、雷の音で起きたのか?
「起こしてすみません。初めまして、瀬戸海里と言います。俺、雷が苦手で……家に帰るのが怖くて」
「そうなんですね。私のことは気にしないで、ゆっくりして行ってください。幸成の知り合いなの?」

「いや、さっき会ったよ」

「そうなの。お腹空いてますよね? 何かお作りしましょうか?」
「いえ、そんな。気にしないでください、俺は大丈夫なので」
「そんなこと言わずに、ぜひ食べてください。そうした方が、リラックスできると思いますし。よかったらお風呂も入って行かれますか?」
「……え、いいんですか?」