愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


 息子の幸さんがそう言うなら、本当にそうなのだろう。
 幸さんが俺を案内したのは、リビングキッチンだった。

 窓の隣にある低くて白い棚の上にテレビが置いてあって。その前にガラス製のテーブルがあり、その後ろに白いソファが置いてある。

 キッチンは部屋の端の方にあり、それはちょうど、テレビと向かい合わせになる位置にあった。
 幸さんがソファの上に無造作に置いてあったリモコンをとって、テレビをつける。

 テレビでは歌番組がやっていて、アーテイストの声が、雷の音をいい感じに紛らわしてくれた。
「お茶入れますね。ソファにでも座っててください」
 リビングの前にあるキッチンに目を向けて、幸さんは言う。
「はい」
 俺が頷くと、幸さんは軽々とした様子でお茶を用意してくれた。

 本当に片目が見えてないのか疑うほど、不自然な様子がない。

 ソファに腰を下ろして、ズボンのポケットからスマフォを取り出す。
 ラインを起動すると、母さんから五件ほどの連絡が来ていた。
『何時に帰ってくるの?』『雷大丈夫?』『迎えに行こうか?』
なんていう俺の心配をしたメッセージと、女の子が泣いた顔のスタンプが一件と、不在着信がある。

 しまった。
 雷に狼狽え過ぎてて、全然気づいてなかった。

 なんて言えばいいんだろう。

 今日会った人の家に泊まるなんて言ったら、絶対に迎えに来るって言われる気がする。そうなったら俺は母さんに幸さんの家に泊まろうとしたわけを、一体どう説明したらいいんだ?
 ここは奈緒の家に泊まるとでも嘘をついておくべきか?

 少し考えてから、俺は本当に母さんに『奈緒の家に泊まる』と連絡を入れた。

「どうぞ」
 トレイを持った幸さんが俺の隣に来て、テーブルの上に、そっとトレイを置く。

 トレイにはお茶が入ったコップが二つと、菓子が入ったお皿が置いてあった。

「ありがとうございます」

 俺は自分の身体に近い方に置いてあるコップを手に取り、お茶を飲んだ。

「うわっ!」
 テレビの音をかき消すくらいの大音量で雷が鳴った。
 思わずお茶をこぼしそうになり、俺は慌ててコップをテーブルに置いた。

 手足を震わせながらその場に縮こまる俺の背中を、幸さんが撫でる。
「急に触ってすみません。こうしたら少しは楽になるかと思って」
「……ありがとうございます」
 軽く頭を下げる。