愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


 雷鳴の音に驚いて、心臓がドキっと音を立てる。
 椅子に拘束された自分の姿が、頭をよぎった。

「海里? 海里さん、海里さん!!」
「え?」
「大丈夫ですか? 顔、真っ青ですよ? もしかして、雷が苦手なんじゃ」
「そっ、そんなわけないじゃないですか」
 食い気味に否定する。

 また、雷が鳴った。

 今度は距離が遠かったのか、比較的小さな音だった。それでも冷や汗が頬を伝い、手足がガタガタと震える。

 怖い。

 父さんが俺をいじめる光景が、頭によぎった。

「上がってください。テレビとか見てたら、きっと気も紛れると思うので」
 こんな状態で家に帰るのは無理だし、お言葉に甘えて上がらせてもらおう。

「……すみません、お邪魔します」
 そう言うと、俺は靴を脱いで、幸さんの家のすのこに足を降ろした。

 幸さんは俺の足を一瞥してから、腰を曲げて、靴を脱いだ。
 幸さんの義足が俺の目に入る。
「幸さん、その脚は……」
「何年か前に自殺未遂をしたことがあって、その時に失いました。……海里さんは、優しいですね」

「え?」

「気づいていたんですよね? 僕の脚が悪いことに。でも、あえて今まで聞かなかった。そして今も、僕が脚を自分から海里さんに見せたから、質問をした。違いますか?」
「……俺の友達にも足を怪我してる人がいて、その人は、なかなか俺に怪我をしてる理由を教えてくれなかったので」
「それで頃合いを見計らってたんですね。ついでなので、この目のことも、説明しますね」
 そう言って、幸さんは自分の右目を指さす。
「一見オッドアイに見えるでしょうけど、これ、義眼なんです。わざわざ左右で色を変えたのは……そうですね、父親と同じ茶色い目が嫌いだったから、ですかね」

 父親と聞いて、つい零次のことが頭を過った。
 足のことといい、幸さんと話すたびに零次のことがちらつく。

 本当にダメだな。

 今は幸さんといるのにこんなに零次のことばかり考えていたら、零次にも幸さんに失礼だ。
「テレビ、見ますよね。こっちです」
 そう言って、幸さんは俺をテレビがある部屋に案内する。

「あの、幸さん、親御さんは?」
 幸さんの後ろを歩きながら、俺は首を傾げる。

「寝室で寝てます。挨拶は明日にでもしてください」
「……テレビつけたら、起こしちゃいませんか?」
「大丈夫ですよ、二人とも睡眠そんなに浅い方じゃないので」