「本当に幸せなんですかね。重いって、呆れられてる気がします」

 本当に俺は重いに程がある。
 だって俺はあいつのことを優先して、奈緒と美和と喧嘩別れをしてしまったんだから。

 俺は明日から千葉にいくから、約束をしない限りは、もう二人に滅多に会えないのに。まあ二人が千葉に来ることがあったら偶然会えるかもしれないけど、そんなことがある可能性は、きっとかなり低いだろう。

「確かに呆れてはいるのかもしれません。それでも、心の奥底では、きっと喜んでいると思います。だってそんなに想われるなんて、とても素敵じゃないですか」
「そうですかね」
 作り笑いをして言う。

 そんな風に想われていたら、こんなに未練がましいのも、一興かもしれない。

「あ、雨」
 男の人が空に手を翳して言う。

 空を見上げると、ぽつぽつと雨が降りだしていた。
 どうしよう。
 天気予報では今日の天気は晴れのち曇りって言っていたから、傘を持ってきてないのに。
「本当ですね。今日傘持ってきてないのに」
「よかったら、傘、お貸ししましょうか? 僕の家、ここから歩いて十分くらいなので」
「それはずいぶん近いですね?」
「近場の方が都合が良いんです。僕、身体弱いので」
 身体が弱い?
 男の人の靴とズボンの隙間から、銀色の義足が見えた。
 凝視したら失礼だと思い、急いで目を背ける。
「どうかしましたか?」
「いえ。お言葉に甘えて、お借りしてもいいですか」
「はい。こっちです、行きましょう」
 男の人の家は一軒家だった。
「御影……」
「ああ、すみません。まだ言ってなかったですよね。僕、御影幸成って言います。海里さんは?」
「え?」
「苗字、なんですか」
「瀬戸です。瀬戸、海里です」
「そうですか。そんな名前の人と海で会えたなんて、なんだか運命的ですね」
「ハハ、そうですかね」
 俺は作り笑いをして、幸さんの言葉を受け流した。

 ――ゴロゴロ!
 玄関で傘を受け取っていたら、雷鳴の音が轟いた。
「えっ」
 嫌な予感がして振り返ってみると、天気は荒れに荒れていて、雷が至るところに落ちていた。
「海里さん、泊まっていきます? 貸した傘が壊れる可能性もありますし」
 幸さんがとんでもないことを言ってのける。
「いやいや、今日会ったばかりの人にそこまでお世話になるわけには……」