俺はじいちゃん達に言われて、大学は送迎バスがあるとこを指定校で受けた。送迎バスがある大学なんて私立ばっかだし、学費の面が心配にはなったけど、そうした方が父さんが脱獄をしてた場合に襲われる心配もないから、そうしてって言われて。

 俺の父親は虐待がバレるのを恐れて俺をきちんと学校に通わせていたから、出席日数が足りないなどの問題は一切なくて、指定校で受けた大学に俺は無事合格した。
 その大学はじいちゃん達の家からバスで通えるとこだから、千葉と東京の境目くらいにあって、俺は明日の夜にでも、母さんと一緒に車で千葉のじいちゃん達の家に行くことになっている。
 東京の俺と母さんが暮らしてたアパートの一室は、母さんが明日の朝のうちに売りに出してくれることになっている。
 もうその家にある荷物は、粗方車の中かじいちゃんの家にあって、すぐにでも売りに出せる状態だ。

 今日奈緒達が俺を誘ったのは、二人は俺がじいちゃん達の家に引っ越しをするのを知っていたから。多分、お別れ会みたいなことをしようとしてくれているんだと思う。
 まあそうは言っても、俺は東京からじいちゃん達が住んでる千葉に行くだけだし、二人と会おうと思えばいつでも会えそうな感じだけど。
   
「ねえ海里、そろそろ、潮時なんじゃない?」
 何かがあるわけでもないのに、ただただ江ノ島の海を眺めている俺に、美和が声をかけてくる。
 美和と俺の間には奈緒がいるから、俺のとこから美和の顔は少ししか見えなかった。
 それでも声のトーンからして美和が落ち込んでいるのだけは確かだった。

 美和はあえて、何が潮時なのかを言わなかった。それでも俺も、多分奈緒も、なんのことかわかっていた。――そう、零次のことだ。

 俺はあの忌々しい零次の父親とは違い、零次が海で身投げをしてから二年が経った今でも、奴のことを探し続けている。
 二年も見つからなければ死んでる可能性がかなり高いとわかっているのに、ずっと探し続けている。そんなことをしても意味がないというのに。
 さっきのやりとりは、零次の身体が見つかったかどうかを確認するためにしたものだ。
 結果はいうまでもなく、零次の残りの身体は、一つも見つからなかった。

 俺は高校を卒業するまでの間に、東京の二十三個の区と六十二の都市を放課後の時間を使って三人と隈なく回って、零次を探した。
 ただ探すだけじゃ見落としがあるかもしれないから、通行人に俺の連絡先を裏に書いた何百枚もの零次の写真のコピーを配ったこともあった。けれど、それは全て無駄だった。
 あいつは、どんなに探しても見つからなかった。