愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「それにしても、虐待ねえ。海里は正直まだわかるけど、零次にもそんな過去があったなんて。あんなにいつも笑ってたのに。本当に人って何を抱えてるかわからないわね」
 美和が額に手を当てて言う。

「え? 俺の方は予想ついてたのか?」

「ええ、だって海里、私達と初対面の時、すごい暗かったじゃない。それに、零次のあの態度、すごく変だった」

「それはあたしも思った! プリクラの時のことでしょ?」
「そうそう。海里が財布を持ってない理由を零次が言うだけならまだしも、あんなロマンチストみたいなことを言うなんて、絶対可笑しいもの」

「確かに! あの台詞はマジで漫画の見過ぎだよ! 『覚えといてくれよ。今日の夕方のことを。初めて放課後に友達と遊ぶことが出来たこの瞬間を』だよ? そんなこというなんて本当に変だもん」

 ああ、プリクラの背景選びの時のことか。
 
 確かにその時の俺とあいつの会話は傍から見たら、すごく変だったのかもしれない。いや、その時だけじゃない。俺とあいつの会話は、大半が不自然だった。まあ俺はそんなあいつの言葉に救われたけど。

「……そうだな。あいつは変だ。常軌を逸してるよ。だって俺を虐待から救ったんだから。大人に子供が勝てるわけないのに、俺が虐待されてるところに向こうみずで突っ込んできて、俺が火傷をされそうになってるのを必死で庇ったんだから」

「それは本当に変だわ。周りが見えてないにも程があるでしょ。でも……零次らしいわね」
 零次のことを思い出しながら、美和は笑う。

「うん。すごく、零次くんっぽい」

「零次ってチャラいけど、誰よりも友達想いで、情に厚いものね」
 美和の言う通りだ。
 俺はそんな零次だから、信頼することができた。
「うん、そうだね。気遣いとかすごいできるもんね」
「そうね。私が零次に親のこと聞いちゃった時も、気にしないでいつも通り振る舞ってくれたし」
 確かに、遊園地の時のあの零次の態度はありがたかったよな。
 零次が気まずい空気を壊すために敢えてふざけた態度をとってくれたから、美和もそれに突っ込むことができて、空気が軽くなったわけだし。