愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「え。いやなんで食べてないのよ」
 美和が俺を怪訝そうな目で見つめる。
「ちょっとタチの悪い奴に絡まれて」
 トレーを膝の上に置いて、おじやを食べながら言う。
 テーブルの上に置いて食べた方が行儀が良いんだろうけど、頭が痛いせいで動くのも億劫だったから、そうやって食べるしかなかった。

「はい嘘。ただ絡まれただけなら暴走族とかヤクザでもない限りはそんな大怪我しないわよ。それに零次はどうしたのよ。海里が絡まれたら絶対身体張って助けそうなのに」
 れんげをぎゅっと握りしめる。
「……零次は、身投げした」
「え、どうゆうこと?」
 奈緒が俺の顔を覗き込んで、不安そうに言う。
 隠さなきゃいけないと思っていたのに、口をついて出てしまった。
「……」
 そろそろ潮時なんだろうか。
 虐待の傷も見られたんじゃ、もう隠しているのなんて無理だよな。

 俺は意を決して、二人に俺と零次の関係性を明かした。

「ごめん、ずっと隠してて」

 ――バチンッ!
 奈緒が俺の頬を叩いた。

「バッカじゃないの! なんでそんな大事なこと、ずっと黙ってたの! もっと早く話してくれてたら、零次くんを助けられたかもしれないのにっ」
 涙を流しながら、奈緒は泣き崩れる。
 返す言葉もなかった。
 もっと早く頼っていればよかった。そしたら絶対零次は身投げせずに済んだのに。

 どんなに後悔してももう遅い。全ては、後の祭りだった。

「はあ、零次くんが見つかったら、海里くんも一緒に、説教だからね?」
 泣き止んだ奈緒が笑って言う。
「え、一緒に探してくれるのか?」
「当たり前でしょ。見つけて文句言ってやらないと」
 腕を組んで美和は言う。
「確かに、あんなに嘘ばかりつかれたら、文句の一つや二ついいたくもなるよね」
 奈緒がうんうんと頷く。
 俺にもっと怒ってもいいハズなのに、一回叩いただけで終わりにして、零次を探すのに協力してくれるなんて、優しいにも程がある。
 本当になんで、今まで頼らなかったんだ。