「はあ」
ため息を吐いてから、軽く辺りを見回す。
床の中央にはピンク色の絨毯が敷かれていて、その上にある白いテーブルの中央には、薔薇の花瓶が置かれていた。
どう見ても女の子の部屋だ。
まさか虐待のせいで彼女いない歴と年齢が一致するこの俺が、女の部屋にいるなんて。自分を助けてくれる女なんて正直、奈緒か美和くらいしか心当たりがない。
不意に部屋のドアが開いて、奈緒が中に入ってくる。
「よかった。海里くん起きたー」
そう言って、奈緒は安心したように笑った。
「奈緒、ここは?」
ベッドのそばにきた奈緒に、首を傾げて問う。
「あたしの家。海里くん、あたしの家から十分もしない場所で倒れてたんだよ。覚えてない?」
「ああ、そっか。ありがとう」
零次の父親は俺を病院じゃなくて、奈緒の家のそばに運んだのか。たぶん、会社の同僚に家を調べさせたんだろうな。……ムカつく。野宿しろって言ったくせに、そこまではするところが。俺が零次だったら、絶対に容赦なく殺していたくせに。
「ごめん、病院じゃなくて。救急車を呼ぼうとしたら、海里くんの身体に異常な量の傷があるのが見えたから、医者に身体見られるの嫌なのかと思って」
そういうことか。
「気い利かせてくれたんだな、本当にありがとう」
「ううん。身体はどう? 手当ては粗方したんだけど」
「ああ、大丈夫。正直、今もかなり痛いけど」
頭に巻かれている包帯を触りながら、俺は言う。
「あ、やっぱり海里起きてた。奈緒が下に降りてこないから、そうかと思ったのよね」
ドアを開けて、美和が部屋の中に入ってくる。
美和はトレイを持っていて、その上には、鍋とれんげが置かれていた。
「うん、心配かけてごめん」
奈緒の隣に来た美和に頭を下げる。
「ううん。気にしないで。お腹空いてるわよね? これ、よかったら食べて。と言っても、私じゃなくて奈緒が作ったんだけど」
そう言って美和が鍋の蓋を開けて、中身を俺に見せる。中には、玉子おじやが入っていた。
「ありがとう、昼食ってなかったから、助かる」
そう言うと、俺は手を伸ばしてトレーを受け取った。



