愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「わりいな、ガキ」
 零次の父親がパソコンを手に取って、それで俺の頭を勢いよく叩いた。
「……いっ!?」
 もう片方の手をズボンのポケットの中に突っ込まれて、スマフォを瞬く間にひったくられる。
 目にも止まらぬ早さだ。  
 余りに急すぎて、ろくに防ぐこともできなかった。

 叩かれた頭から流れている血が、床を真っ赤に染め上げる。
 俺はあまりの痛みに床に倒れそうになり、すんでのところで勉強机の縁を掴んで、それを阻止した。  
           
「ハッ。あいつの誕生日じゃねえか」
 零次の父親が俺のスマフォのロックを解除しながら言う。
 父親はそのままスマフォを数分ほど操作すると、俺のスマフォを、窓に向かって思いっきり投げた。
 スマフォの液晶がバッキバキに割れて、まるで水が弾けたみたいに部屋中に飛び散る。
 液晶のかけらが頬をかすって、血が出た。
「なんで」
 ボロボロのスマフォを拾い上げて、画面を触る。
 辛うじて電源はついたが、それ以外の操作は一切利かなくなっていた。

「あ? だってスマフォと名刺の写真のデータがなければ、お前がここを覚えてない限りは、USBにある証拠を取りに来ることもできないだろ?」   
 名刺の写真を削除するだけでなく、スマフォ自体も壊すなんて、一体どれだけ証拠が見つかるのを恐れているんだ。
「悪いな、ガキ。今日はどこかで野宿でもしろ」
 野宿って……。無慈悲にも程があんだろ。         
「証拠隠滅のためだけにこんな怪我させといて、挙げ句の果ては野宿かよ。あんた、本当に鬼だな」
「褒め言葉として受け取っとく」
 後ろから背中を叩かれ、ゆっくりと床に向かって倒れる。
 視界がぼやけて、意識が段々と遠のいていく。
 歪む視界の中で最期に見たのは、零次の父親の憎たらしいほどの笑顔だった。


 目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。
「いって……」
 身体を起こすと、傷口がものすごい痛みを訴えた。まるで虐待されてた時に戻ったみたいだな。……いや、戻ったみたいではないか。あの時みたいに零次がいるわけじゃないんだから。