「続き見るか? 終わりまであと一時間くらいあるけど」
質問の意図を言わない俺に痺れを切らし、零次の父親は話題を変えた。
あまりの内容に目を見開く。
「まさかその一時間も、零次がホースで遊ばれてる映像か?」
「察しがいいじゃねえか」
「お前、頭可笑しいんじゃないか!!」
零次の父親の胸ぐらを掴んで、俺は叫んだ。
「あんなクズのためを思って怒るなんて、お前こそ頭が可笑しいんじゃないか?」
そう言って、零次の父親は声をあげて嗤った。それはまるで、『面白くてたまらない』とでも言うかのように。
「ふざけんな! なあ、あんたは知ってるのか? あいつが本気の恋をしないで、セフレばっか作ってるのを。あいつがあんたに母親を殺されたせいで、どれだけ人の死に臆病になったかを!」
「セフレ? ああ、お前知らないんだな」
「は?」
そこから先を、聞いてはいけない気がした。
「あいつはセフレなんて作ったこともねえぞ」
「なんでお前がそれを知ってんだよ」
「あいつは女と遊ぶ時、必ずホテルがない場所を指定してた。これはあいつのスマフォをクラッキングして得た情報だから、間違いねえよ」
「じゃあ俺に言ったのは?」
「強がりだろうな。いやあ、傑作だな。まさかあいつがそんな強がりをいうくらいあの時の記憶に囚われてたなんて」
下卑た笑みをこぼして、零次の父親は言う。
ゾッとして、俺は思わず零次の父親の胸ぐらから手を離した。
悔し涙が頬を伝う。
まさか零次がこんな仕打ちを受けてるとは思わなかった。
心のどこかで、あいつが本命を作らないのは人の死を恐れてることや、いざこざが嫌いなこと以外に、何か明確な理由がある気がしていた。
だってそれだけが理由なら、死は俺の時みたいに相手の子を監視してしまえば未然に防げるし、いざこざは一緒にいる上でのルールとかを決めておけば、しないで済むだろうから。
でもそう思っていたからって、まさかこんな理由があったとは想いもしなかった。
なんであいつはこんな大事なことをずっと黙ってたんだ。セフレがいるなんて嘘をついてまで。
恥だったからか。
……いや、違う。
俺が、ガキだったからだ。
俺があいつの優しさに戸惑ってばかりで、自分のことで精一杯になってしまっていたから。
俺が人間不信で、頼りがいのない甘ったるいガキだったから、あいつは俺に相談もしないで身投げをしたんだ。
いやでも、それでも、相談をしないだけならまだしも、話すらしないのは、絶対違うだろ!
なんで今更、こんなことを知る羽目になるんだよ。なんで今更、あいつの恥を知ることになる? こんなの遅いにも程があるだろう。



