愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「ここだ」
 勉強机の前で足を止めると、零次の父親はジャケットのポケットからキーケスを取りだした。
 父親のそばに行って、机を観察する。
 見たところ、なんの変哲もないただの勉強机だ。机の上には本とパソコンが置いてあって、勉強机の下にある引き出しは三段だった。二段目に鍵がついている。

 零次の父親がキーケースの中にある小さい鍵を使って引き出しを開けると、そこにはUSBメモリがあった。
「USB?」
「ああ」
 零次の父親がUSBメモリを手に取って、パソコンに差し込む。
 零次の父親がパソコンを起動してUSBメモリにあったファイルを開くと、画面に一本の動画が表示される。

 動画の右上に、日付が表示されている。
 二千十九年、四月一日? 三年前だ。
 零次が監禁されてた時期とちょうど一致する。

 ――まさか。

 嫌な予感がした。
 俺は慌てて画面をクリックして、動画を再生した。

 暗いとこで撮影されたのか、画面は基本的に薄暗かった。
 オレンジ色の丸い照明が、周りをぼんやりと明るく照らしている。

 場所はおそらく車の中だ。

 車の天井にカメラを設置して撮影したのか、映像は基本的に上からものを見下ろしているような感じになっていた。
 照明は後部座席の右側の席に置かれていた。

「えっ、零次……?」
 後部座席の左側の席に、白髪の男の子が写っていた。

 男の子は下を向いていて、顔が見えなかった。

でも零次の父親がこの動画を俺に見せてきたことから察するに、この男の子は間違いなく零次だ。

「ご名答。これはあいつが監禁された時の映像だ」
 言葉を失う。

 ――ああ、やっぱりか。

 撮影日が三年前で、映っていたのが車の中だった時点で、そんな気はしていた。

「あんたはあいつを監視してたんですか」
「ああ。あいつが自害したら、すぐに気付けるようにな」
 俺は何も言わず、唇を噛んだ。
『……た』
 零次が何かを言う。
 俺は少しだけ映像を巻き戻すと、パソコンのボタンを押して、音量を上げた。
『喉乾いた』
 その声は俺が聞いていた零次の声とは段違いに低くて、やけに掠れていた。
 零次が後部座席のドアを全開まで開ける。