愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様


「半分正解で、半分ハズレ。あいつが紫のものを集めてたのは、母親のことを考えている時だけは、俺に支配されてることを、自分が籠の鳥だってことを忘れられるからだよ! つまりこの家具は、あいつの母親への執着と、俺への恐怖心を現してんだ」

「――っ!?」
 心臓が張り裂けそうだった。

 的を射ている気がした。

 言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。だって、異常だ。あんなに紫のものしかないなんて。家具だけじゃなくて、服や帽子なんかもあんなに紫のがあるなんて、常軌を逸しているにも程がある。まさかそれが父親の恐怖心からくるものだなんて、考えもしなかったけれど。

「俺はこの部屋を見るたびにあいつが俺の奴隷なのを実感して、愉悦を味わってる」
 顔を歪ませて、恍惚と零次の父親は笑う。

 その恍惚とした表情が、零次の『壊れてくれたんだ』と言った時の顔にとても似ている気がした。

 どんなに最悪な関係性で、犬猿の仲だとしても親子は親子ということだろうか。

「ふざけないでください。零次はあんたを楽しませるためにこの家具を買ったんじゃない。あんたにそんな気持ちを味合わせるくらいなら、俺がその家具を買い取ります!」

 口から出たその言葉は、出任せも当然だった。

「へえ、いくらで? 十万以上なら考えてやらんでもない」
「それは……」
 言葉に詰まる。
 そんな大金、払えるわけがない。

 俺のために寝る間も惜しんで働いている母さんに家具を買ってくれなんて言えるわけがない。

 それでもこいつに愉悦を味合わせるのだけは、絶対に嫌だ。

 こいつに愉悦を味合わせるくらいなら、いっそのこと家具を燃やした方がよっぽどマシだ。

「はあ。この話はもう終わりだ。お前を家に連れてきたのは、これを見せるためじゃないからな」
 そうだった。
 しまった。危うくあいつの気持ちを知るっていう、当初の目的を忘れるところだった。

 零次の父親が手前の部屋を出て、奥の部屋のドアを開けて、中に入っていく。俺は何も言わず、後をついていった。

 そこは、子供部屋だった。
 零次の部屋か?

 ドアの横に勉強机があって、壁際に小さなベッドが置かれていて、ベッドの上に抱き枕用の猫のぬいぐるみが置いてある。
 ぬいぐるみは白くて、俺が零次からもらったやつに似ている気がした。
 零次はぬいぐるみを通して、自分に言い聞かせていたんだろうか。自分の意志を殺したらダメなんだってことを。