俺に、怒る資格なんてない。
 そうわかっていても、あいつの俺に対する言動に腹を立ててる自分がいた。
『誰が助けてって言ったんだ』『いらん世話焼いてんじゃねえ』
『赤の他人に馬鹿みたいに尽くしやがって』なんて言葉が頭をよぎった。

 次に浮かんだのは、叶うはずもない願望だった。

『帰ってきて』『一緒にクレープ食べたい』『また同居したい』『飽きるまで、倒れそうになるくらいまで、零次と遊びたい』

 あいつがいない現実なんていらない。欲しくない。だって、俺を人にしたのはあいつだから。
 俺はあいつに出会うまで、人形みたいになっていた。いや、人形になるのを望んでたんだ。感情なんてあっても意味ないって、どんなに死にたくないって願っても、叶わないと想っていたから。
 あいつはそんな俺に人でいていいって、自分の意思を殺すなって言ってくれた。
 理不尽な世界に反抗する気力もなくして、酷い世界を良くしようともせずにいた俺の目を覚まさせてくれた。
 神様みたいに、俺のことを救ってくれた。

 ――自分も地獄みたいな世界にいたハズなのに。本当は俺を助けたいなんて思ってはいけない環境にいたのに、俺を助けてくれた。
 地獄だった世界を、本当に天国に変えてくれた。それなのにどうして! どうしていなくなんだよ! 人の人生勝手に変えたんだから、最後まで責任持てよ! 

 お前は結婚したら、その一ヶ月半後に離婚をする奴なのか? 

 右手首にあった紫色のリストバンドを額にあてる。
 母さんが親父に燃やされた零次の帽子をリメイクして作ってくれたやつだ。帽子がタオル地だったから、燃えてなかったとこを編んで、リストバンドにできたんだそうだ。
 リストバンドで涙を拭っていたら、紫色の糸がベッドに少しだけ落ちた。

 なあ零次、今どこにいんだよ。

 お前がいない世界は、物足りなくて仕方がねえよ。

 十分休みにクラスメイトと話している時、あるいは独りで本を読んでいる時に、なんでお前がいないんだろうって、考えないようにようにしようとしても、嫌でも考えてしまう。
 他にも放課後家に帰ってる時や家でテレビを見ている時など、日常のあらゆるところでお前の姿が目に浮かぶ。
 なんで、どうして、身投げなんかしたんだよ!