「動画を撮らないと殺すって言われたのか?」
 俺は返答を聞くのが怖くて、震えながらその言葉を言った。

「ああ。卒業までに動画を撮らないと殺すって言われた。それがあったから、俺はお前のことを助けた後、あんな意味深な言葉を言って、お前の自殺を止めたんだよ。――お前が自分を大切にすればするほど、酷い虐待の動画を撮れる可能性が高まると思ったんだ」
 心臓を鷲掴みされたかのような衝撃に襲われる。

「……じゃあ、零次は俺を騙してたのか?」
 冷や汗が頬を伝い、俺は震えながらその言葉を口にした。
 まさか、あの言葉が動画を撮るためのものだったなんて想いもしなかった。

「ああ。俺はお前が命のありがたみが分かればわかるほど、酷い虐待の動画が撮れるんじゃないかって想ったんだ。だからお前に、自分の命を大切にしろって言った。……カメラを渡すところまでは、計画は一応順調だった。お前を助けてしまったのはイレギュラーな事だったけど、それ以外は順調だった。ものすごい虐待の映像が撮れたしな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、零次。確認したいことがある」
「なんだよ」
「俺に自分を大切にしろって言ったのは、動画のためだけじゃないよな? 零次がそう言ったのは、俺を心配してたからだよな?」
「ああ、そうだよ。じゃなきゃ自殺を止めるわけがないだろ」
 よかった。零次のあの言葉は、本心からの言葉だった。
 その言葉が本心からの言葉じゃないのだけは、絶対に嫌だった。だって俺は、零次のあの言葉に救われて、少しずつ自分の意思を大切にするようになったから。

「……なんで俺はお前に、同居なんて持ちかけちゃったんだろうな」
 両手で頭を抱えながら、零次は言う。
 まるで後悔をしているかのような言い方だった。

「え、なんだよそれ」
 冷や汗が頬を伝う。

「わからないか? 俺がやるべきことは、カメラの映像を撮ることと、自殺を止めること。その二つだけで良かったんだよ。……同居なんて、提案すべきじゃなかったんだ。だって同居をして仲良くなったら、お前を救いたいと思ってしまうだろ。……映像を警察に提出して、お前の父親に裁きを受けさせてやりたいって思ってしまうだろ。それじゃあダメだったんだ。俺は自分が殺されないために親父に動画を渡さなきゃいけなかった。そうしなきゃいけなかったんだよ!!」

 白髪の髪を掴んで、絶望に暮れた様子で零次は言う。