蘭と花畑で遊ぶ夢は何度も見るのに、
 あの痣のある少女の夢を見たのは一回きりだった。
 ローズは、あの子は一体誰だったんだろうとは考えたが、次第に忘れてしまった。

 10歳になる頃には、完全なる「悪人」へと成長していた。
 ローズは、国王に呼び出された。
「おまえは、次期国王になる人間だ」
 そこで、ローズは初めて自分に弟がいることを教えられた。
「おまえと同じ色の目をしている」
 弟の説明を受けたのはそれだけだった。

 ふと、ローズの頭の中で、夢に登場する少女の姿が浮かんだ。
 だが、夢の中で登場するのは少女だ。
 やはり、あの夢は意味がないのだろうと考えた。
「私が死んだら、王族はおまえとその弟だけになる。王位を継ぐのはおまえだ。決して弟と争ってはならぬ」
 争うも何も。
 ローズは弟に実際会ったことはなかった。

 ローズが蘭を目にしたのは、青年騎士団学校だった。
 だが、顔を見合わせてはいたのだがローズは色がわからない。
 色がわかれば、蘭の顔を見てすぐに自分の弟だと気づいたはずだ。
 (そば)ですれ違っても、ローズは蘭に気づくことはなかった。

 国王に命令されて、青年騎士団学校に入学した際、
 他国の王族の人間が留学してきたという設定にされていた。
 決して自分が、この国の王族だとバレてはいけないという…。

 そもそも、ティルレット王国の王族は世間一般的に顔を知られていない。
 唯一、顔を知られるのは国王の即位時だけで、王族は民衆の前に出ることはなかった。
 それは、過去に起きた王位継承を巡る王族同士の醜い争いが原因とされている。
 更に、ローズの母が一人ずつ王族を殺害したのも要因とされていた。
 いつどこで、命を狙われるかわからない為に素性を隠し、本名を明かしてはならなかった。

 国王はローズに王位を即位する際の儀式について説明をした。
 王族専用の神殿のある島へ行くこと。
 その島へ行く際には、悪人と善人、そして選ばれし者、女神を連れて行くことだそうだ。

 悪人は自分、善人は恐らく弟ではないかという説明を受けた。
 選ばれし者は、女神から何かしらの呪いを受けた人物だという。
 女神に関しては、よくわかってないそうで。
「まあ、女を連れて行けってことじゃないのか?」
 と投げやりに国王は答えた。
 先々代から仕える家臣に調べさせても、女神に関する記録は残っていないとのことだった。

 何となく・・・モヤっとした内容だった。
 神殿に行って、そこで女神に祈祷すれば国王を即位できる。
 ローズは古いしきたりに意味があるのだろうかと思ったが、
 そのしきたりを無視した前国王とその王子が若くして亡くなったのを聞いて。
 自分は行くべきなのだろうと思った。