蘭と私が全力で神殿に向かって走り抜ける間、
 どういうわけか、死神は襲って来なかった。
 何度か蘭の手を振り払おうとしたけど。
 力強くて、無理だった。

 神殿に着いて蘭の手を振り払うと、
 蘭はその場にしゃがみ込んだ。
「何で、こんなことするの? 何で、触ったの?」
 蘭の顔を見ると、真っ青だった。
「下手したら、失神してたのかもしれないんだよ!」
「うるさい」
 しゃがんだ状態で蘭は私を睨みつける。
 ゼーゼーと音をたてて呼吸をしながら、蘭は暫く黙った。

 神殿は真っ白な空間だ。
 壁も床も天井も真っ白で、誰か掃除しているのかなと思うくらい、異様な綺麗さだった。
 自分はいったい、何しているんだろうと。
 ぼんやりと蘭を眺める。
 緊急事態とはいえ、呪いのことを忘れて走り抜けた蘭の気持ちがよくわからない。
「少し休んだほうがいいよ」
「大丈夫…」
 ゲホゲホっと蘭は咳き込んだ後、立ち上がる。
「こんな呪いも、もうおさらばだ」
 蘭は手で顔の汗を拭った。
「ねえ、みんな。大丈夫なの? 置いてきて」
「…俺の100倍は強いから大丈夫に決まってる」
 真顔で何言ってるんだろう?
「あれごときで、やられるなら。騎士団になんかなれないだろ」
 ほんとうに? と疑惑の目を向けると。
「それに、選ばれし者も、俺も簡単には死なないようになってる」
「…それって」
「行くぞ」
 蘭が歩き出した。

 わからないことだらけだ。
 選ばれし者って何なのだろう。
 神殿を蘭はまっすぐに突き進んだ。
 5分も歩かないうちに行き止まりになったので、
「どういうことだよ」
 蘭が大声でわめいた。
 右を見ても左を見ても、道はなかった。
「道を間違えたんじゃ…」
 と言いながらも、まっすぐに進む道しかなかったはずだ。
「ここまで、来たのに」
 蘭がイライラしたように言う。
 声が空間いっぱいに響いた。
 青白い顔で睨まれて、「落ち着いて」と言おうとした瞬間、
 ふわりと身体が宙に浮いた。
 え、と声を漏らす間もなく。
 床が抜けて落下していくことを絶叫しながら知った。

「ぎゃーーーーーーー」

 一体、何度絶叫すればいいのだろう?