「そういうわけで、俺と蘭って昔からビミョーな距離があるんだよね」
 クリスさんの話を聞き終えて、私は嫌な気持ちになった。
 渚くんの過去の話も衝撃的で具合が悪くなったけど。
 クリスさんの話も、聞いていると切なくて苦しいものばかりだった。

「何のための呪いなんだろうね」
 独り言のように、クリスさんが言ったけど。
 私は答えることが出来ない。
「といっても、俺の場合は自分で望んだ呪いだから、贅沢は言えないのかもね」
 白い歯を見せて、ニカッと笑うクリスさんを見つめることしかできない。
「クリスさんの呼び名って…、サクラの本名から来ていたんですね」
 そして、話を聞き終えた自分の感想が、それくらいしか出てこない自分の頭の悪さにも落ち込んでしまう。
「そっ。でも、俺にピッタリの呼び名でしょ?」
 と、爽やかスマイルで言うので、うんうんと頷く。
 皆、植物の名前だし、渚くんは海の一族だから「渚」という呼び名は納得できる。
 でも、考えてみれば。どうしてクリスさんだけ物の名前じゃなくて、人の名前だったのか不思議だった。
 まさか、サクラの本名から来ているだなんて…。

「カレンちゃん。お願いがあるんだ」
「へ?」
 急に真剣な眼差しをしてクリスさんが言う。
 その目に吸い込まれそうになるが、後ろでサクラが殺気立っているのを肌で感じた。
 ずっと寝たふりをして、この子は起きていたのだ。
「蘭のことを見捨てないでやって」
「え?」
「蘭の味方でいてあげて」
 そう言うと。
 クリスさんは、すっとテントから出ていく。

「おかえりー」
 クリスさんが大声で言うと。
 遠くから「くりすぅー」と甘えた渚くんの声が聞こえた。