一気に指揮官の陣営テントに風を巻き起こし、眠り粉で包囲して、指揮官を昏睡させた。

指揮系統が消失したことで、西の一般兵は戦況が把握できないが、命は惜しいので各々で撤退して行った。

「聖獣様のお姿の威力は、流石としか言い様がありませんね」

こちらの陣営が全く動かずして、敵陣の八割が撤退していく様子に、ベイルさんが呟く。

「それが狙いだもの。ねぇ、メルバ。彼らはそのまま風のベッドで運んでしまいましょう」

そんな私の提案に、メルバはひとつ頷くとサッと風の球体を浮かしてしまう。

指揮官の側に居た、伝令はその様子にとうとう腰を抜かしてしまったようだ。

「では、君が自国に伝えてください。指揮官はお預かりします。戦は、勝てぬものでしたと西の王にお伝え下さいね」

そう言って私はメルバとベイルさんと共にこの敵陣を立ち去った。

開戦宣言時刻から、わずか一刻での戦況終結は今後イベルダの史上に黒の乙女で癒しの姫として呼ばれたと記録される私の、最高の功績として残ることになった。

無血の勝利と名高いこの戦は、後に聖獣と乙女の奇跡と呼ばれることになった。