「お待たせ、紅音」

「いえ。では食べましょうか」

「ああ」

 二人で【いただきます】と手を合わせ、朝ごはんを食べる。
 普段俺はいつも朝ごはんを食べなかったが、紅音が作ってくれるおかげで、毎日朝ごはんを食べるようになった。

「味噌汁、うまい」
 
「本当ですか?良かった」

 紅音は結婚したばかりの頃、【いつも作る料理が、庶民的ですみません】と謝ってきたことがあった。
 確かに紅音は俺が家ではいつも高級なものばかり食べているイメージが、あったかもしれないが……。でも庶民的だなんて思っていない。
 毎日作ってくれるその料理にはたくさんの愛情がこもっていて、本当に優しい味付けでなんだかこう、心がほっとするような何かを感じている。

「急で悪いんだけど、今日は取引き先の人たちと会食をすることになった」

「え、そうなんですか?」

「だから夕食は作らなくていい」

「分かりました」

 会食が時々あるのは仕方のないことだが、紅音の手料理を食べられないっていう残念さのほうが、今の俺には大きい。
 そのくらい、紅音の手料理が恋しくなるということか。