主語も述語もないそれに頷く。
足立は小さく笑って、数秒慈しむようにお墓を視線でなぞった後、ゆっくりしゃがんで線香の火を消した。
「今日もあっついね、遥香」
最近どう? と、まるで久々に会った旧友のように語り掛けている。否、あながちその表現も間違っていないのかもしれない。
「私はね、球技大会でめっちゃ活躍したよ。霧島は相変わらずテストの点数ヤバいし、近江は彼女いないし、雫はネイルが派手め」
「おい」
近江が耐えかねたように口を開く。
「あは。ほらね、相変わらず短気でしょ。ねえ、遥香。みんな、全然変わってないよ」
だから、来年もまた、絶対に来るよ。
そう付け足して、足立は僅かに目を細めた。
一通りの挨拶を終え、俺たちは元来た道を戻る。
気を遣って歩幅を小さくしていた近江が、その前を歩いていた足立に揶揄われて、二人の鬼ごっこが始まった。糸川はそれを気怠そうに眺め、別段ペースを上げることもなく歩き続けている。
刹那、後ろから風に大きく背中を押されて、反射的に振り返った。そこには、自分たちが今さっき辿ってきた道があるだけだ。
あの夏、一人泣いていた。それを咎めるように俺の前髪を持ち上げた風と、同じ類いのもののように思えてしまう。
だから、なのだろう。
何の変哲もない坂道。あの日と同じように、彼女がまばゆく微笑んでいるような気がした。



