夏休み明けの教室には、これまでと同様、一つだけ空いた机があった。
クラスの全員が登校してきても、その席には誰も座らない。授業が始まっても、昼休みになっても、その席がうまることはない。

その席は、この春に亡くなった出雲遥香の席だからだ。

彼女には生前、夏にやりたかったことがあったらしい。足立がそのために俺たちを誘って、夏休み、色んな所へ行った。

彼女が亡くなったと聞いた時、もちろん悲しかった。だけれど、壊れるくらいに泣いている足立を見てしまうと、俺の感情はその枠に入れてしまうのもおこがましいくらいだった。
そうしているうちに、自分は本当に、そこまで悲しくないのではないかと思えてきてしまった。

彼女とは特別仲が良いわけではなくて、たった二回、話した程度。最初は俺から。二回目は、彼女から。


『生きてるから、ラッキーだよ』


背筋を伸ばしてそう言う彼女に、ものすごく驚いたのを覚えている。
儚く白い肌が印象的な、細身の女の子。こんなにはっきりと話すのも、無邪気に笑うのも、その時に初めて知った。

叱られたような感覚だった。いつも病院に通っているという彼女にとっては――生と死を常に見つめている彼女にとっては、俺の悩みなんて、泣くほどのことじゃない、と。