その瞬間、風がやって来て、彼の前髪を優しく持ち上げる。
霧島くんは弾かれたように顔を上げ、私の顔を真っ直ぐに見据えて、澄んだ瞳を見開いた。

もう泣かないでね。辛い時と苦しい時は泣いていいけれど、私のためにはもう、泣かなくていいんだよ。


「……はは、」


彼の頬が緩む。くしゃりとその顔が歪んで、綺麗な涙が一筋、伝っていった。


「うん。ありがとう、出雲」


日焼けした腕が、目元を擦る。三回、四回、五回。そんなに擦ったら痛いよ、と途中で声を掛けたけれど、当たり前に、私の注意は彼に届かない。

腕を退けたら、そこにはもう、いつもみたいに爽やかな笑顔の霧島くんがいるだけだった。でも、目はしっかり赤くて、それに少しだけ嬉しくなった。


「また、来るよ。来年も、足立と近江と糸川と……」


その後も霧島くんは何か言ってくれていたみたいだけれど、残念なことに、聞き取れなかった。聴覚だけではなくて、視覚もぼんやりと靄がかかっていく。

最後に彼が優しく手を振ったのを見て、私は夕焼けの中、自分の意思で目を閉じた。