必死に首を振って制止するも、私の言葉はただの遠慮と受け取られたのか、薫はやけに真剣な顔で霧島くんに告げた。
「遥香のために、お願い」
背後で息を呑むような気配がして、沈黙が落ちる。
ゆっくり振り向けば、霧島くんと視線が交わって驚いた。
彼はこちらを見つめたまま、神妙な面持ちで瞬きを繰り返している。その瞳の中にいつもの柔らかい色が戻ってきた瞬間、霧島くんは眉尻を下げて優しく笑った。
「いーよ。……実はさ、俺、出雲ともっと仲良くなりたいって思ってたんだよな」
「えっ」
不意打ちのカミングアウトに、かあ、と頬が熱くなる。
霧島くんが私と仲良くなりたい? 気を遣って言ってくれているんだろうか。そうだったとしても嬉しい。きっとこんな風に言ってもらえることなんて今後ないだろうから、今日は記念日だ。
それは遥香も喜ぶわ、と薫が目尻を和らげる。何だかお母さんみたいな言い草だ。
「で、放課後何しに行くの」
軽く頭を傾けて、霧島くんが促してくる。
薫はわざとらしく人差し指を立てると、胸を張って切り出した。
「それはね――」



