この夏、やり残した10のこと



必死に首を振って制止するも、私の言葉はただの遠慮と受け取られたのか、薫はやけに真剣な顔で霧島くんに告げた。


「遥香のために、お願い」


背後で息を呑むような気配がして、沈黙が落ちる。

ゆっくり振り向けば、霧島くんと視線が交わって驚いた。
彼はこちらを見つめたまま、神妙な面持ちで瞬きを繰り返している。その瞳の中にいつもの柔らかい色が戻ってきた瞬間、霧島くんは眉尻を下げて優しく笑った。


「いーよ。……実はさ、俺、出雲ともっと仲良くなりたいって思ってたんだよな」

「えっ」


不意打ちのカミングアウトに、かあ、と頬が熱くなる。
霧島くんが私と仲良くなりたい? 気を遣って言ってくれているんだろうか。そうだったとしても嬉しい。きっとこんな風に言ってもらえることなんて今後ないだろうから、今日は記念日だ。

それは遥香も喜ぶわ、と薫が目尻を和らげる。何だかお母さんみたいな言い草だ。


「で、放課後何しに行くの」


軽く頭を傾けて、霧島くんが促してくる。
薫はわざとらしく人差し指を立てると、胸を張って切り出した。


「それはね――」