だから、そんなことで泣かないでよ。って、さすがにそれは言わなかったけれど。
「生きてるから、ラッキーだよ」
本当に、そうなの。
病院にいると、私より死に近い人もたくさんいる。昨日まで元気だったのに、次の日突然手術になって、そのまま帰ってこなかった人もいる。
私たちは、こうやって普通に呼吸をしているだけで、奇跡みたいにすごいんだよ。
霧島くんはしばらくこちらを凝視して、それから、気の抜けたように笑った。
「ははっ」
八重歯が覗く。青空を背に、眩しく笑っている。笑っているのに、泣いている。
「本当だ。俺、めっちゃラッキーだった」
出雲が言うなら間違いない、と彼はほんの少し眉尻を下げた。それから、霧島くんは「ありがとう」と息を吐く。
「うん、なんか……ちょっと気が楽になった」
本当かな。私に気を遣ってそう言ってくれているんじゃないだろうか、と思ったけれど、彼の表情はどこかすっきりとしていて、霧島くんが嘘をつくわけがない、誠実な人なんだった、と腑に落ちる。
彼の泣き顔を見たのは、後にも先にも、この時だけだった。
他のみんなが知らないところを、私だけが知っている。憧れだったはずの温度がほんの少し上昇して、愛しさに近付いていくのを、心の奥に感じた。



