彼女の頬を、手の平で撫でる。
そんなに泣かないで。薫は笑顔が一番だよ。薫が笑っていると、私も嬉しいの。
「ありがとうね」
他の人と比べたら短い人生。
でも、その中で薫と出会えたことが、どんなに幸せだったか。鮮やかできらめいた記憶を、どれだけ彼女からもらったことか。
「ありがとう、薫……」
遥香、って。薫がそう呼んでくれる度に、私はここにいる、生きてるって、思えたの。
体が消えてしまっても、変わらず「遥香」って呼ぶから。薫には私がみえているのかなって思っちゃった。そんなわけないのに、おかしいよね。でも、ほんとだよ。
嬉しい、悲しい、寂しい。まだ感情があって良かった。心を込めてくれた人たちに、私も精一杯、気持ちを返すことができる。
長い長い沈黙だった。お母さんが顔を上げて、後ろを振り返る。
「……みんな、本当に、遥香のためにありがとう。喜んでると思うわ、きっと」
ね、遥香。
以前みたいに、お母さんが投げかけてくる。その時、ようやく目が合った。お母さんの瞳はゆらゆら潤んでいて、それを見て、どうしようもなく愛しくて、涙が出た。
片付けを終え、ぴかぴかの墓石に西日が反射する。
「霧島」



