薫が私のために、つくってくれたの。他の人からしたら全然「たくさん」じゃないかもしれないけれど、私にとっては十分すぎるくらい。

それからね、色んな所に連れて行ってくれた。私は小さい頃から病院にいてばっかりで、みんなが当たり前にしてきたようなこともできなかったから、ラジオ体操の時は、雫に呆れられちゃったよ。
でもみんな、何だかんだ付き合ってくれたの。優しいよね。

全部嬉しかったけれど、そうだなあ、やっぱり私が一番嬉しかったのは。


『えーと、五個でいいのかい?』

『はい。バニラが三つと、チョコが二つで』


店員の人に怪訝そうに見つめられても、五個買うって譲らなかった、薫の気持ちが一番、私は嬉しかったよ。


「お母さん。いつも、ずっと、一緒にいてくれてありがとう」


綺麗な細い指を両手で包み込んで、私は真っ直ぐに伝える。あがらない瞼。
お母さん、いま何を祈ってるの。私はいま、ここにいるよ。目の前にいるのに。


「お父さん。いつも私のわがまま聞いてくれて、ありがとう」


優しいお母さんの代わりに、叱るのはお父さんの役目だったね。薬やリハビリでいらいらして無理を言った私に、お父さんは私よりも苦しそうな顔をして、そんなことを言うんじゃないって、怒ったよね。
いじけて私が寝たふりをした後、ごめんって泣きながら謝ってくれていたの、本当は知ってたよ。