ぼんやりと桜の木を見つめていたところで、陽気な声が飛んでくる。
私は慌てて手元のメモ帳を隠し、顔を上げた。


「お、今日はちょっと元気そうじゃん」


薫はいつものように手を挙げて病室に入ってくると、私のベッド横に置いてある椅子に腰を下ろす。
中学三年生、初めて話した日から、高校生になった今日まで。彼女は唯一、マメに私のお見舞いに来てくれる友達だった。


「うん。最近結構調子がいいみたい」

「へえ、それは良かった。確かに、去年より全然学校来る日多くなったもんね、遥香」


そう相槌を打った彼女が、今日はこんなことがあったよ、と話し出す。
薫の話を聞くのが好きだ。今度は私が相槌を打って、静かに談笑する。

結構調子がいいみたい――それは、かなり調子が悪いみたい、の間違いだ。

高校生になって、薫とも霧島くんとも同じクラスになって、私は浮かれていた。なるべく行けそうな日は登校して、授業も人並みに受けてみたりして。
突然活動的になった私を拒絶したのは、私自身の体だった。どっと疲れることが多くなり、休んだ日はほぼ一日中ベッドの上で寝ていることも増えた。

寿命を削っている音がする。それも、ハイペースで。


「そんでさぁ、(もり)先生の説教がマージで長いの。どれくらい長いかっていうと……」