可愛らしいピンクの唇が、俗悪に歪む。
その瞬間、ばしゃばしゃと音を立てて、雫が海から陸へと上がった。彼女たちの真ん前で立ち止まる。息を吸う音が、聞こえた。
「謝って」
普段とさほど変わらない、凛とした声色だった。
雫の横顔はいつも通り涼しくて、それでも、張り詰めた空気のようなものが彼女の周りを覆っている。
「は? 何?」
「失礼なこと言ったから。謝って」
そこで初めて、雫が自分のためではなく、私たちのために言ってくれているのだと分かった。
理由添えで同様の言葉を述べた雫に、咎められた犯人は眉根を寄せる。
「意味分かんないんだけど。ホントのこと言っただけじゃん。どうせ高校でも友達できないから、そうやって友達ごっこしてんでしょ――」
「謝って!」
刹那、砂浜に雫の怒号が響き渡った。
付近の人が驚いて振り返ったり、訝しむように首を伸ばしてこちらの様子を窺っている。
「私のことはいいけど、私の友達にまでそういうこと言うのはやめて」
友達。彼女の口からはっきりと飛び出したその単語に、場違いながらも温かい気持ちになった。一方通行なんかじゃなかったんだ、と密かに嬉しさを噛み締める。
「……行こ」



