薫の質問に短く答えた近江くんは、眼鏡を自身の指で押し上げる。


「へー、よく分かんないけど。とりあえず、近江も友達になってよ」

「……出雲の?」

「あ、なんだ。うちらの話聞いてた? だったら早いじゃん。そういうこと」


友達をこういう風につくるのが正解なのかは分からないけれど、短時間で二人も友達ができてしまった。改めて、薫ってすごいなあ、と感嘆のため息をつく。

まあいいけど。近江くんが若干戸惑ったようにそう返して、目を伏せた。


「あの、近江くん。よろしくね」


勇気を振り絞って、彼に挨拶をしてみる。
声が小さすぎたかもしれない。近江くんの意識は既に本へ向いていて、残念ながら会話のキャッチボールはできなかった。


「よし。そうと決まったら今日の放課後、校門前集合ね」

「えっ、今日?」


あまりにも突然な薫の提案に、思わず聞き返してしまう。
糸川さん――もとい、雫も「何で?」と身を乗り出していた。


「近江もだからね。勝手に帰んないでよ」


我関せず、といった様子で本のページをめくっていた隣の彼が、薫に名指しで釘を刺され、緩慢に顔を上げる。


「俺、予定あるんだけど」

「はい残念。そこの二人が部活も委員会も入ってなくて暇なのは調査済みでーす」